児童文学評論記録

児童文学を評論する中年の日記

長い長いお医者さんの話(カレル・チャペック)

『ロボット』のカレル・チャペックである。この人は器用な人で、児童文学でも名作を書いている。アラビアン・ナイトのような、物語の中で物語が展開する形式をとっている。『ソリマンのお姫様の話』に出てくる、パンとチーズが美味しそうで食べてみたくてたまらなかったーそしていざ食べてみたらそれほど美味しいものでもなくてがっかりした、という人はけっこう多いのではないか。あれはなぜなんだろう、輸入の過程でなにか問題があるのだろうか?

 私がとくに気に入ったのが、『山賊の話』である。あるところにそれはおそろしく、やり手の山賊がいた。彼には一人息子がいたのだが、幼少期から実地練習として山賊になるため修行をしたり……しなかった。なぜか有り金をはたいて、修道院でやっている貴族や大金持ち御用達の名門学校に入れてしまった。そして礼儀作法から勉強まで学び、素晴らしい青年紳士になった。なったはいいが、父親である山賊が急死してしまい、跡取り息子として故郷に戻らなくてはならなかった。そして山賊として暴虐のかぎりをつくそうとするが、おぼっちゃま育ちの青年である。追い剥ぎだの、脅しだのはできない。相手が老婆ならフェミニストぶりを発揮してプレゼントまでしてしまうし、家庭に飢えた子供がいると嘘をつかれれば、だまされてお金を持たせる始末。とうとう困り果てた青年は修道院に助けを求める。

 チャペックは意欲的に新しい童話をつくろうとしている。そのためにこれまで王宮貴族や魔法使いしか出てこなかった物語に、郵便配達人を登場させた。だから山賊の子供が学校教育を受ける、というのも20世紀に登場した「国民みんなが一律の教育を受ける」という発想のもとに展開されたのだろう。しかし、山賊はなぜ養子をとるとか、そういう将来のための算段をしておかなかったのか。まあ、そういうことをしないからこその山賊と言われればそれまでなんだけれど……。